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COLUMN#3 - 終わりのない想像と物語り。- 対話型鑑賞を通して




   

Prologue

HUG FOR_. が鎌倉でスタートを切ったのが2022年12月4日。早いもので1年と4カ月が過ぎました。縁もゆかりも薄い土地でのチャレンジは、鎌倉がもつ刻まれた歴史、新と旧が共存する文化、豊かな自然、季節と共に過ごす時間、魅力溢れる人々と、挙げ切れないくらい多くの恩恵を授かり、そして関わってきたすべてのアーティスト、地元や都内、全国各地から訪れる方々との展覧会の度に生まれる一期一会の出会いのおかげで、一歩一歩、一段一段、土壌を築き成長を遂げることができています。いつでもその感謝の気持ちを胸に本日もコラムを書き綴らせていただきたいと思います。


 





対話型鑑賞会(Visual Thinking Strategies, VTS)


4月25日から5月12日まで開催した、能登真理亜「水平線をなぞると海」にご来場いただいた皆さまへ、まずは心から御礼申し上げます。画家の能登真理亜さんは、ギャラリーがオープンした年の春先頃に知り合った作家で、約一年間コミュニケーションを重ねてこの展覧会に臨みました。展示作品は鎌倉や湘南の海をモチーフにし、能登さんらしさと新鮮さが織りなされた素晴らしい作品が並びました。鎌倉の日常の海は、能登さんの感性を通して美しく伸びやかな景色となりギャラリーに広がりました。


そして会期中は展示作品を題材にした対話型鑑賞会(Visual Thinking Strategies, VTS)を一般の方向けに2回、近隣の高齢者デイサービスセンターの皆さまをご招待した会の計3回、各会参加者10名ほどで開催しました。


今回の展示作品が想像性に余白を与えてくれる作風であると同時に、現代美術のフィールドにおいて伝統的な技法を用いた日本画を初めてご覧になるお客様が少なくない中で、日本画独特の画材や質感、表面に描かれている絵の表情とその裏側に貼られた金銀箔の隠れた在り様など、多面的な要素に目を向けて愉しんでいただくに適しているのではという意図がありました。



― 思考、視覚、コミュニケーション技能のリテラシーを養うための美術。

対話型鑑賞会(Visual Thinking Strategies, VTS)は、元々子供の発達目的に開発されたものですが、現在は子供から高齢の大人まで、作品をじっくりと観察し、見て感じたことや考えたこと、連想したことなどを自由に発話し合い、作品理解を深めていく時間として親しまれています。


ギャラリーでの実践では、年齢やバックグラウンドを越えて一緒に考えたり、感じたり、時には小さなお子様(4歳児や小学校低学年)の意見に大人が感嘆する場面もあり、大人が子供に物事を教えるという関係性から離れ、互いの意見を尊重し気づきを得ていく体験の奥深さを感じることができました。


対話型鑑賞会(Visual Thinking Strategies, VTS)との出会いはまだ浅く、2020年大学院生の時。当時、社会全体についてアートを通して人と人、人と社会をコミュニケートしながら包摂的な社会の可能性や、個人には精神的な緊張や不安を緩和、例えば震災地や紛争地にいる子供のPTSD(PostTraumaticStressDisorder)に対して何か寄与できないかなど、アートの可能性について考えていた頃です。もしかしたら広大な知識が必要なく、正解も不正解もない世界線で自由な発言の場が出来るVTSが、いつか役立つツールとして生かせるかもしれないと期待して履修しました。担当教員はVTSを開発したニューヨーク近代美術館(MOMA美術館)で直々にトレーニングを受けた芸術教育を専門とする教授だったこともあり、学生は基本の理論を深く理解した上でファシリテーションのトレーニングを重ね、美術館などで小学生を対象に実践を行っていました。


トレーニングは鑑賞会全体の進行に加えて、発言者に自分の意見を表明する機会を与え「理解された」「聞いてくれた」「尊重された」「反応を受け止めてくれた」ことをしっかり認識できる態度を示すことや、身体的にも「指さしなどを使った表情豊かな対応」「一人一人の発言を言い換える=パラフレーズ」などのアクションをすべての参加者に対して行っていくことを身に付けます。(※1 参考図書があるのでご興味ある方は下記の本をお読みいただければと思います)

始めは自信なさげで緊張気味の参加者も、徐々にアートから受ける印象や可能性を議論したり、好奇心が高まり活発になっていく様子を肌で感じられます。またその場の空気は温まり、ここでは誰もがフェアな関係性である事実も実感します。


鑑賞会は1作品につき30分程度ですが、決して"完了"はさせません。アートの素晴らしい側面である、作品を繰り返しそれを見直していくことで、より想像や思考を豊かなものにしていくことも体感して欲しいからです。まとめや完結、絶対や固定の観念、正解、不正解の答え合わせは必要なく、作品を観た私たちの想像力の可能性、自由な解釈、イメージしたすべての物語りには終わりがないということを対話型鑑賞会は教えてくれます。気持ちを楽にして、目の前にあるアートをグループで楽しむ。その中で子供や大人が混ざり合い観察し、思考、批評的、自己表現、傾聴、尊重、コミュニケーションが自然な形で緩やかに形作られていく体験。


かつて「いつか役に立つかも」のVTSが、このようにギャラリーで実現できたことを心から嬉しく感じました。今後もギャラリーのイベントとしてVTSを開催していきますので、ご関心ある方はぜひご参加下さい。新しい発見や体験に出会える時間になるはずです。

ここでは書ききれない内容のVTS。気になる方がいらっしゃればお伝えできる範囲でお話しいたしますのでギャラリーまでお越しください。


最後に、ご参加いただいた皆さま、またアンケートにお答えいただいた皆さま、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。今後のより良い会のために貴重なご意見は参考にさせていただきます。ありがとうございました。



【開催記録】

・4月28日(日)14:00-15:00 参加者11名 / 鑑賞題材は能登真理亜「水平線をなぞると海」より「波間、Midnight stroll」

・5月9日(木)14:00-15:00 参加者10数名(鎌倉市内 デイサービスセンターの皆さま)/ 鑑賞題材は能登真理亜「水平線をなぞると海」展示作品

・5月11日(土)11:30-12:30 参加者7名/ 鑑賞題材は能登真理亜「水平線をなぞると海」より「波間、波長」












 

文:HUG FOR_. Eriko.O

※参考図書:「どこからそう思う? 学力をのばす 美術鑑賞」/フィリップ・ヤノウィン 著, 京都造形芸術大学アートコミュニケーション研究センター 訳

※対話型鑑賞会題材作品(波間、Midnight stroll、波長)


コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動などを執筆しています。気楽にお読みいただけますと幸いです。

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