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Column#26 - 育まれる時間と整っていく体 - 古民家での暮らし、一年を経て。

  • 3月21日
  • 読了時間: 4分

更新日:3月26日






海辺から山辺に引っ越して、まもなく一年が経ちます。

ようやく平屋の古民家の生活環境にも慣れ、周辺環境にも慣れ、引っ越したことの意味を感じたり考えたりしています。


引っ越しの決め手となった小さな庭の柚子の木は、ゆっくりと季節を巡り、この冬、数百個の実をつけてくれました。

その庭にはリスや小鳥が日々通り過ぎたり、立ち止まったり、ときには窓越しに彼らと目が合うこともあります。その一瞬に、思わず小さく笑ってしまうことも。


草花の色の移ろいや、わずかな成長の違いを眺めることも、いつのまにか日常になりました。


そうした小さくて、けれど確かな変化に気づけること。それ自体が、以前の自分にはなかった感覚のように思え、静かな悦びを感じています。土に触れ、芽吹きを待つ時間。思い描いていた家庭菜園は、まだ試行錯誤の途中ではありますが、その不完全さも含めて、この暮らしの一部になりつつあります。


静かな山辺での暮らしは、慌ただしい日常からほんの少し距離を取り、朝も昼も夜も、自分の呼吸に意識を向ける時間を与えてくれました。以前感じていた重さや、言葉にしづらい鬱々とした感覚も、完全に消えたわけではないけれど、確実に質を変え、やわらいでいるのを感じます。

眠りにつく少しまえの時間もどこか安心した気持ちを感じるようになりました。


最近は、庭に面した小ぶりのサンルームをヨガのための空間にし、朝と夜、静かに体をほぐす時間を持つようになり、ますます快適な暮らし方と向き合っています。







積み重なっていく「豊かさ」の手ざわり


どこにいても、身の回りにある小さな心地よさを見つけ、それを日常の一部としていくこと。

そして、その日常を一日ずつ、長い時間をかけて積み重ねていくこと。

「豊かさ」とは、一朝一夕で手に入るものではなく、こうして静かに紡がれ、醸成され、ふと息をついたときに気づくもの。

その感覚は、いまでは揺るがないものになりました。


古くて新しいこの家での暮らしは、心の真ん中にずっとあった小さな願いを、少しずつ形にしていく過程でもあります。

そしてそれは、これからもまだ、ゆっくりと続いていくのだと思います。



目に見える大きな変化ばかりを求めていた頃には気づけなかった、小さな移ろいの中にこそ、暮らしの豊かさは静かに宿っているのかもしれません。


日々は劇的に変わらなくてもいい。季節とともに、わずかに揺らぎながら続いていく時間の中で、自分の感覚もまた、ゆっくりとほどけ、整えられていく。そんな風にそのことに気づけたことが、いまの私にとってのひとつの確かなとても大きな実りのように思います。














当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。

文、写真:HUG FOR_. Eriko.O



Eriko OKUYAMA




大学卒業後、民間企業や外郭団体での勤務を経て、2016年からアート業界に転身。主に銀座、六本木、白金台、天王洲など都内の現代アートギャラリーにて展覧会の企画運営マネジメント、プロジェクトマネジメント、アーティストマネジメント、パブリックスペースのアートコーディネーションに従事。ライフワークとしては、芸術の社会的な役割を模索しながら障がいのあるアーティストの展示企画や実践研究に取り組んできました。鎌倉に移住後、地域交流や豊かな自然によって心身と暮らしが満たされていく実感と共に、改めて芸術の在り方そのものを再解釈し、自身とアーティストの自己実現へのチャレンジ、そして人々が真の幸福に向かう思考と体験を共有する場を創りたいという想いのもと、2022年12月にHUG FOR _ . を開業しました。

ギャラリーとして作品を販売し、運営を持続させていくことと、芸術が社会や人に対してどのように貢献し循環させることができるか、事業性と社会性の両輪の視点をもって活動をし続けています。ギャラリーやアートは、暮らしや私たちの内面にとても近い存在であると考えています。難しく考えずにお気軽に足をお運びください。​

・筑波大学大学院 博士前期課程 人間総合科学研究科芸術支援領域 修了

・修士論文「共生社会の実現に向けたアートを通した交流活動」筑波大学茗渓会賞 受賞

​・HUG FOR_. ホームページにて月に一度のコラムを連載


 
 
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