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Column#25 - ライブラリー「逢声 aisei」に寄せて - たった一つの声に出逢うための空間づくり

  • 23 時間前
  • 読了時間: 5分






この春、ギャラリーの展示空間の隣りに、もうひとつの小さなギャラリーのような、ライブラリー を設けることにした。ギャラリー空間と壁一枚を隔て、それらの役割は少々、異なる。

私は活字に囲まれては暮らさない。けれどだからこそ、本や音が“適切な距離”で存在できる場所をつくりたかった。その意図について今回のコラムでは綴りたいと思う。







逢声に寄せて―――


アートギャラリーが「見る」場所だとすれば、「逢声 aisei」は「聴く」ための場所かもしれない。ここで言う“聴く”とは、耳で音を拾うこと以上に、内側の揺動に気づくということだ。

私たちはしばしば、その揺動を言語化できずに胸の奥に沈め不和を抱いている。しかし見方を変えればそれは、小さな希望。その輪郭に、静かに触れるための違和感なのである。その不和や違和を見過ごさないでいたいと常々おもう。


実のところ、前述したとおり私は活字に囲まれて暮らす人間ではない。自宅に本棚はなく、本もほとんど置いていない。活字に満ちたプライベート空間というものが、どうにも落ち着かないのだ。

本は、ときに静かな圧力を持つ。読まなければならない気がする。理解しなければならない気がする。知っているほうがよい、考えているほうがよいという無言の期待を勝手に感じ取ってしまう。

そのプレッシャーから自由でいたくて、私はあえて本を日常の中心から遠ざけてきたことに最近、家を見渡して気づいた。


でも、過去の文学や哲学から日々のヒントを探したい欲求はおさまらず、そんな時に行き着いた場所は図書館だった。

図書館のあの誰とも関わらず話さないことが許容されている空間がたまらなく心地いい。

古い紙に匂いや、立ち読み、流し読み、ななめ読みが許容されている感覚がたまらなく安心する。そしてたっぷりと時間をかけて自分を取り戻すための古くて瑞々しい言葉を探す。


「逢声 aisei」は、“読むための部屋”にはしたくない。知識を積み上げる場所でも、教養を証明する空間のつもりもない。


ここで願っているのは、ただひとつ。

ある一文に、ある一言に、ある概念に、ふと、出逢うこと。


本は最後まで読み終えなくてもいい。意味を完全に掴めなくてもいい。

ページを閉じたあともなぜか胸に残る、小さな震えのようなもの。それだけで十分だと思う。



そんなライブラリ―の空間づくりにおいて大切にしているのは、「情報を増やさない」という姿勢である。現代は、放っておいても視覚も聴覚も求める以上の刺激で満たされる。だからこの小さな部屋では、何かを強く主張するのではなく、余白を設計することを選んだ。


本は整然と並べすぎない。けれど無秩序にも置かない。偶然のようでいて、実はゆるやかな意図で結ばれている配置にしたい。

図録の隣りに思想書があるかもしれない。一冊の詩集のそばに、静かな音源が置かれているかもしれない。

それらはジャンルではなく、感覚でペアリングしたい。


私は骨董市や蚤の市を巡ったり、アンティークショップで一点物の日用品をよく購入する。理由を辿ってみれば、そこに使われてきた痕跡や時間をまとった物の佇まいに惹かれているからだ。そう考えると言葉もまた、時間の堆積物である。何十年も何百年前も前に書かれた過去の作者の文章が、現代の私たちの胸を打つことがある。その事実そのものが、この空間の思想とも重なったのだと思う。


照明は明るすぎず、暗すぎない。集中と解放のあいだを行き来できる明度を探りたい。長居を強いるのではなく、ふと立ち寄り、数ページ読み、何かを持ち帰ることができる距離感をつくりたい。


ここは、誰かと議論する場所ではない。むしろ、自分自身と再会や出逢い直す場であってほしい。


たとえば展示空間で作品と向き合ったあとに言葉に触れる。あるいは、言葉を入口にして作品を見る。どちらが先でもかまわない。自由に過ごしてもらいたい。


「HUG FOR_.」が作品と人、人と人の対話を育んできた開けた場だとすれば、「逢声 aisei」は、自分との対話をそっと促す、閉じたギャラリーのような場になるのだと思う。


慌ただしい日常のなかで、何かを決め、選び、評価し続ける、あるいは決められ、選ばれ、評価され続ける私たちにとって、何も成し遂げなくてよい時間は、案外勇気のいる行為なのかもしれない。この小さな部屋が、何かを足すためではなく、少し削ぎ落とすための空間となるように。


そしてその静けさのなかで、ある一文、あるひとこと、ある概念に出逢えますように。

自分の深奥にある“声”に、だれかの深奥から湧き出た"声”に、そっと逢える場所であればと願っている。



当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。

文、写真:HUG FOR_. Eriko.O



Eriko OKUYAMA

HUG FOR_. オーナー




大学卒業後、民間企業や外郭団体での勤務を経て、2016年からアート業界に転身。主に銀座、六本木、白金台、天王洲など都内の現代アートギャラリーにて展覧会の企画運営マネジメント、プロジェクトマネジメント、アーティストマネジメント、パブリックスペースのアートコーディネーションに従事。ライフワークとしては、芸術の社会的な役割を模索しながら障がいのあるアーティストの展示企画や実践研究に取り組んできました。鎌倉に移住後、地域交流や豊かな自然によって心身と暮らしが満たされていく実感と共に、改めて芸術の在り方そのものを再解釈し、自身とアーティストの自己実現へのチャレンジ、そして人々が真の幸福に向かう思考と体験を共有する場を創りたいという想いのもと、2022年12月にHUG FOR _ . を開業しました。

ギャラリーとして作品を販売し、運営を持続させていくことと、芸術が社会や人に対してどのように貢献し循環させることができるか、事業性と社会性の両輪の視点をもって活動をし続けています。ギャラリーやアートは、暮らしや私たちの内面にとても近い存在であると考えています。難しく考えずにお気軽に足をお運びください。​

・筑波大学大学院 博士前期課程 人間総合科学研究科芸術支援領域 修了

・修士論文「共生社会の実現に向けたアートを通した交流活動」筑波大学茗渓会賞 受賞

​・HUG FOR_. ホームページにて月に一度のコラムを連載


 
 
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