Column#29 - 与える側、受け取る側のあいだで。-アートを通した子どもとの関わりへのまなざし。
- 5月28日
- 読了時間: 5分
ギャラリーの活動を続けるなかで、自分が関心を寄せているものが自然と浮き上がり、直接取り組みに反映されてきていることを実感しています。そのひとつとして、子どもとの関わりがある。
これからHUG FOR_. では、子ども向けの対話型鑑賞会を定期的に開催し、来月にはタイ・チェンマイでは、アーティストと子どもたちによるワークショップも予定している。少しずつ子どもたちと関わる機会が増えていくたびに、十数年前に見た、とある光景を思い出すだろう。今日は、その記憶について綴ってみようと思います。

「子どもが好きなのですか」と聞かれると、少し答えに迷う。
けれど一緒にいると楽しい。面白い。慕ってくれると素直にうれしいし、気づけばこちらの精神年齢もぐっと下がって、友達のような感覚になることがある。
そんな私の中に、十年以上経った今でも忘れられない光景がある。
インドネシアを訪れたときのことだ。障がいのある孤児たちが暮らす施設に滞在する機会があった。そこには定期的に水や食料品、日用品などの支援物資が届けられていた。その日もたくさんの品物が運び込まれていたのだが、私が衝撃を受けたのは物資そのものではなかった。支援物資を持参したのは、制服を着て整えられた比較的裕福な家庭で育つ子どもたちだった。そして施設の子どもたちと向かい合い、一人ずつ手渡していく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そのやり取りが繰り返された。
現地ではそれは日常で当たり前のことであり、一見すると美しい光景なのかもしれない。支援をする子どもと、感謝を伝える子ども。善意の循環とも言える。外から来た私の価値観と視点で、ただ重く見ているだけだったのかもしれない。
けれどどうしても胸がざわついた。
さっきまで一緒に笑っていた子供たちの顔が神妙に、緊張の表情をうかべていた。
同じ年代の子どもたちなのに、そこには明確に「与える側」と「受け取る側」が存在していた。
どちらの立場でもない私にとってその構造が、あまりにもくっきりと見えた体験だった。
もちろん支援そのものを否定したいわけではない。物資が必要な人に届けられることは大切なことだ。現実には助け合いが必要な場面もたくさんある。
ただ、そのとき私が感じたのは、人は支援を受ける存在である前に、一人の人間だということだった。誰かを助けることと、誰かを対等な存在として尊重することは、似ているようで少し違う。受け取るばかりの立場に置かれ続けると、人は自分の中にある力を見失ってしまうことがある。反対に、与える側もまた、自分が優位な立場にいることに無自覚になってしまうことがある。
あの日の光景は、そのことを私に教えたように思う。
だから今、子どもたちに関わる活動を考えるとき、「何を与えられるか」よりも「どんな関係をつくれるか」を大切にしたいと思う。
教える人と教わる人。
支援する人と支援される人。
大人と子ども。
そうした立場を越えて、一緒に何かを見たり、作ったり、笑ったりできる場があったらいい。
アートには、その可能性があるように思う。
作品を前にすると、大人も子どもも、知識のある人もない人も、マジョリティもマイノリティも、同じひとりの鑑賞者になる。正解を持つ人がいるわけではなく、それぞれが感じたことを持ち寄ることができる。私が子どもたちと関わることに惹かれる理由も、アートに魅力を感じるのも、根源的にはそこかもしれない。
何かを与えたいからではなく、一緒に世界を発見したいから。
誰かのために何かをすることよりも先に、同じ目線で向き合うこと。教えることよりも先に、一緒に驚き、考え、発見すること。
その積み重ねのなかに、お互いを尊重し合える関係が少しずつ育まれていくのだと思う。そして私もまた、子どもたちから世界の見方を教わる一人でありたい。
これからギャラリーの活動で子どもたちと関わる機会が増えていくたびに、十数年前に見たあの光景をやはり思い出すのだろう。その記憶を胸のどこかに置きながら、与える側でも受け取る側でもなく、一人の人間として子どもたちと出会い続けていきたいと思う。
当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。
文、写真:HUG FOR_. Eriko.O
Eriko OKUYAMA

大学卒業後、民間企業や外郭団体での勤務を経て、2016年からアート業界に転身。主に銀座、六本木、白金台、天王洲など都内の現代アートギャラリーにて展覧会の企画運営マネジメント、プロジェクトマネジメント、アーティストマネジメント、パブリックスペースのアートコーディネーションに従事。ライフワークとしては、芸術の社会的な役割を模索しながら障がいのあるアーティストの展示企画や実践研究に取り組んできました。鎌倉に移住後、地域交流や豊かな自然によって心身と暮らしが満たされていく実感と共に、改めて芸術の在り方そのものを再解釈し、自身とアーティストの自己実現へのチャレンジ、そして人々が真の幸福に向かう思考と体験を共有する場を創りたいという想いのもと、2022年12月にHUG FOR _ . を開業しました。
ギャラリーとして作品を販売し、運営を持続させていくことと、芸術が社会や人に対してどのように貢献し循環させることができるか、事業性と社会性の両輪の視点をもって活動をし続けています。ギャラリーやアートは、暮らしや私たちの内面にとても近い存在であると考えています。難しく考えずにお気軽に足をお運びください。
・筑波大学大学院 博士前期課程 人間総合科学研究科芸術支援領域 修了
・修士論文「共生社会の実現に向けたアートを通した交流活動」筑波大学茗渓会賞 受賞
・現在は一橋大学にて社会学を専攻しています
・HUG FOR_. ホームページにて月に一度のコラムを連載


