Column#34 - 「静」のなかから、「動」き出す- 静けさから生まれる、思考のスパーク。
先日、あるアーティストと「静」と「動」について話し、最近、自分のなかで「動」が大きくなっていることに気づいた。
私はこれまで、どちらかといえば「静」の人間だと思っていた。ひとりで考えること。時間をかけてものを見ること。すぐに答えを出さず、少し離れたところから眺めること。
ギャラリーという場所をつくってきたことも、きっとその延長にあった。静けさや余白のなかにいると、自分の思考がよく見えた。
23歳の頃、パニック障害を発症した。
それから15年以上、自分の心身に起こる細やかな変化を感じ取りながら、その時々の自分と付き合ってきた。
気持ちが沈む時期もあったし、思考が内側へ内側へと向かっていくこともあった。
自分のなかで考えて、完結する。
ある意味、とてもシンプルだった。
私の場合、鬱の状態になることを、あまり悪いことだとは思っていなかった。
そのとき頭のなかを巡る言葉や思考には、普段は気づかなかった感覚や問いが現れることがある。そこから、自分でも思いがけないヒントや気づきを受け取ることもあった。
もちろん、苦しさそのものを肯定したいわけではない。
ただ、その状態にある自分の内側で起きていることまで、すべて否定する必要はないと思っている。
夜に文章を書くのも、その時間の延長なのだと思うし鋭い感性もそのせいであると思う。
外から入ってくるものが少なくなった夜に、自分のなかに残っているものを拾う。
昼間なら通り過ぎてしまうような考えが、夜になると浮かんでくる。それを言葉にしたり、仕事のアイデアと結びつけたりもしている。
私にとって、何も起こっていないように見える時間ほど、内側ではたくさんのことが起きている。
そして最近は、そこから少しずつ分かりやすく外へ向かうようになった。
以前なら、自分のなかで考えて終わっていたことを、言葉にして人に伝えるようになった。
思いついたことを、以前ほど温めすぎずに出してみる。
誰かの言葉に反応して、自分の考えをその場で返してみる。
「私はそうは思わない。こう思う」と、自分の立場を言葉にすることも増えた。
誰かと話したあとには、さらに別の考えが生まれる。
ひとつの言葉から次の言葉が生まれ、考えが次々とつながっていく。
自分から働きかけることで、世界との接点が増えているような感覚もある。
考えながら動き、動きながら考える。
脳がすごく活発になっていることが、自分でもわかる。
そして不思議なことに、心はむしろ軽やかになっている。
考えることが重荷になるのではなく、考えたことを外へ出すことで、また次の考えが入ってくる。
もしかすると、「スパークする」というのは、このことなのかもしれない。
静かに蓄えてきたものが、人や言葉や出来事に触れた瞬間、火花のようにパチパチと動き出す。
考えることと伝えること。ひとりで深めることと、誰かと交わること。立ち止まることと、踏み出すこと。
それらは、どちらかを選ぶものではないのだと思う。
内側で育ててきたものがあるからこそ、外へ出たときに思いがけない広がりが生まれる。
そして外の世界に触れたからこそ、また自分の内側へ戻って、新しいものを育てることができる。
これまで私は、自分は「静」の人間なのだと思っていた。
けれど、いまは少し違う。
静かに沈み、考え、拾い上げ、そこから言葉にして、人と交わり、自分から働きかけ、伸びやかに動いていく。
その両方が自分のなかにある。
どちらかを選ぶのではなく、そのあいだを行き来する。
静と動をかけあわせること。
その循環そのものが、私の生き方なのかもしれない。
最近、そんなふうに考えている。
当コラムは月に1-2回程度、ギャラリーに関連する活動を軸に執筆しています。お気楽にお読みいただけますと幸いです。
文、写真:HUG FOR_. Eriko.O
Eriko OKUYAMA

大学卒業後、民間企業や外郭団体での勤務を経て、2016年からアート業界に転身。主に銀座、六本木、白金台、天王洲など都内の現代アートギャラリーにて展覧会の企画運営マネジメント、プロジェクトマネジメント、アーティストマネジメント、パブリックスペースのアートコーディネーションに従事。ライフワークとしては、芸術の社会的な役割を模索しながら障がいのあるアーティストの展示企画や実践研究に取り組んできました。鎌倉に移住後、地域交流や豊かな自然によって心身と暮らしが満たされていく実感と共に、改めて芸術の在り方そのものを再解釈し、自身とアーティストの自己実現へのチャレンジ、そして人々が真の幸福に向かう思考と体験を共有する場を創りたいという想いのもと、2022年12月にHUG FOR _ . を開業しました。
ギャラリーとして作品を販売し、運営を持続させていくことと、芸術が社会や人に対してどのように貢献し循環させることができるか、事業性と社会性の両輪の視点をもって活動をし続けています。ギャラリーやアートは、暮らしや私たちの内面にとても近い存在であると考えています。難しく考えずにお気軽に足をお運びください。
・筑波大学大学院 博士前期課程 人間総合科学研究科芸術支援領域 修了
・修士論文「共生社会の実現に向けたアートを通した交流活動」筑波大学茗渓会賞 受賞
・HUG FOR_. ホームページにて月に一度、アートやライフスタイルを通して自身の思考の奥にある思想を整理、探求するためのコラムを発信


